七夕の草紙 トップへ
七夕の草紙について

【書誌】
  上・中・下3冊。表紙寸法、縦15.6糎、横22.8糎(横本)。袋綴。
上冊本文15丁 挿絵5図、中冊本文17丁 挿絵5図、下冊本文9丁 挿絵3図。
表紙、紺紙金泥草木模様。見返し、市松模様型押銀箔。江戸前期の成立。

【内容】
  江戸初期頃に作られた、奈良絵本。3冊とも本文第1丁に「唫樹亭」(朱文方印)の蔵書印が捺されているが、誰の室名か今のところわからない。本文の筆蹟は、流れるような速筆の奈良絵本特有の書風、絵は版本の挿絵に似た略画風。彩色は人物の面貌の剥落が目立つが、ほかは比較的保存状態がよく、補筆が少ない。
 三条万里小路の内大臣には、三人の男子と二人の姫君があった。妹姫は帝と東宮から求婚されたが、夢うつつのうちに現れた美男(あめわかみこ)と契を結び、その後も逢瀬を重ね、身ごもったが露見し、代わりに姉姫が入内した。待ちかねた帝が姫を見たが聞きしほどにもないと疎まれたので、姉姫は里へ帰り世を去った。一方、身を隠していた妹姫は男子を出産し、再び三条の御所へ迎えられた。若君が5才の七夕の日、あめわかみこが天上へ連れ去り、人々は悲嘆にくれたが、あめわかみこの遺した瑠璃壺の薬を飲むと、夢のごとく醒めた。このことを聞いた東宮(新帝)はかねてより妹姫に心を寄せていたので、立后の宣旨があり、妹姫は入内して一門はめでたく栄えたという、神婚神話と公卿恋愛物語を絡ませた物語。
 本文中に「たなばたのあめわかと申もの」と名乗っていること、5才の若君が七夕の夜に昇天することによるもので、七夕の由来とは関わりがない。